場に馴染む

18

私のキャリアのスタートでAD(アシスタントディレクター)をしていた際に、稀にあったのが「ロケハン」と言うやつで、この言葉は日本ならではの造語らしいのですが、要はロケーション・ハンティングという意味合いで使われており、「撮影する場所を事前に訪問して絵になりそうな場所や、撮影に適しているのかを調べる」と言うものでした。

当時の私は「なんで、行けばわかるところをいちいち一回下見に行かないといけないんだろう?」と、なんとなく疑問に思いながら(荷物持ちとして)ついて行ったものですが、今、出張などを行いながら各地の景色を見ていると「ロケハン」の価値と意味がなんとなくわかると同時に、旅行が好きな人の気持ちがなんとなくわかるようになってきました。

すべてが新鮮に見える功罪

まあ、結論がこの見出しに集約してしまっているのですが、旅行先というのは兎にも角にも「なんでもが新鮮」に映るんですね。飛び込んでくる景色、空気、街の音、そういうものが「すべて新しい」訳です。だから五感はよく刺激されますし、とても疲れを感じるケースもあります。

それは、引っ越したばかりの通勤・通学路が最初は遠く感じていたのが、馴染むごとに「いつものルート」となり、さして疲労を感じなくなることに似ているのかもしれません。この「新鮮」という「外部からの刺激」、特に異国に行けばその「差分」は相当大きなものでしょうから、これが好きな人は旅行が好きなのだろうなあと思います。ちなみに、個人的な話をすると、私は旅行がそんなに好きではありません。とにかく疲れるからです。今までは「何でこんなに疲れるんだろう」と思っていたのですが、カメラを持ってようやくわかりました。五感が、その場の「新鮮さ」にとにかく反応し続けているからだったのだなと思います。

では、それって良い事なのか? 悪い事なのか? という話なのですが、これは「受け取り方次第」だと思います。

たとえば、私が「カメラを持って撮影する場合」においては、これはあまり良い方に作用しないことが理解できつつあります。というのも、私は「平常時に見える、普通の人が目に止めないような景色」が好きだからです。それって突き詰めると「新鮮さ」みたいなものが「当たり前」の中に隠れているから「浮き出てくる」みたいな事なのですが、新しい場所、新しい環境、旅行先だと、「とにかく全てが新鮮に見える」から、これが出てこないんですね。

さて、話を冒頭に戻すと、これこそが「ロケハンの意味」なのだな。と今はよくわかります。1回その場に赴いて、場の空気や状況を確認しておく。もちろん、それだけで全ての溝が埋まるわけではありませんが「一回の体感」は、100時間の事前学習に勝る価値があると、私は思っています。

これは、ビジネスも一緒で、私はよくマーケティング施策でも、一定「相応にできている」と感じたら「まず、やってみましょうよ」とクライアントに言います。ある程度、筋よく70%くらいまで練り込んだら、正直そこからは「とっとと場に出して、現状を掴む」方が情報収集が効率的に進み、改善の素地になるからです。

施策が一回でうまくいくこともありますし、そうならないケースもありますが、往々にして(事前に、目的を整理して準備ができている状態で挑んだのならば)「やっておいてよかった」となる方が圧倒的に多いものです。

場に馴染んでみる。1回行った場所も、2回目にはそれまでとは違う景色が見えるものです。1回も行ったことがないからこそ、1回は行ったことがあるからこそ、何回も見ている景色だからこそ、それぞれにできる違いを見極め、それぞれの有り様を楽しんでいきたいものです。

関連記事