踏み込みを覚える

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「AIを活用して写真撮影技術の速度を劇的に向上させた」と言うと、特に長い期間写真をやってきた方ほど仰ることは「いいなあ、僕の若い時にもそんなものがあったらなあ……」と言う感じの言葉です。昔は、写真部や専門学校に入って、たとえば「最初の1年は50mmの単焦点レンズだけで、子供を写しなさい」のようにミッションの中で基礎を固めた……などという話は普通だったそうです。

まあ、これは写真に限らず、私もギリギリ仕事は「編集」の徒弟制度から始めた身なので良く分かります。「同じ釜の飯を食う」的な言葉は実によく使われていましたし、師匠と仕事をなるべく長い時間共に過ごすことで、その価値観や、仕事っぷりを「まずは盗む」という体験が重視されるようなことは、今となっては時代錯誤と思われるかもしれませんが、確かに機能していましたし、実は今の自分の素地を固めているものはソレにほからない訳ですから、本当に良い経験をしたと思っています。

さて、上記のどちらにも言えることは「重視されていたのは知識ではなく、経験」という所だと思います。「見るとやるのでは大違い」と言いますが、私がマーケティングコンサルティングにおいて非常に「体験」を重視して仕事を進めていくのもまさにココが理由で、それはひとえに「踏み込みの深さの差」だとすら思います。

写真学習をAIと共にする、を例に考える

では、それがどういう事なのか? を具体的に考えてみましょう。たとえば、この章タイトルにあるような「写真学習をAIと共にする」と言うのを皆様が考えたときに「どうするのか?」に、みなさまの傾向が見て取れていきます。

案外多くの人は、AIに対する質問は「写真を上達するにはどうしたら良いですか?」と聞いたり、「どんな被写体を撮影すると上手くなれますか?」と言ったような質問をする事でしょう。そうなれば、AIは当然「教科書的な回答」を返してくれるわけで、あなたはそれを聞くことで「なるほど、勉強になったぞ」と思う訳です。

つまり、情報の取得が「受動的」だという事です。

一方、私のやり方は、そういう「知識軸」とはかけ離れていて、とりあえず、自分の撮影した「渾身の10枚」をAIにぶち込んで、シンプルに聞くんですね。

「この写真はすべて同じ撮影者によって撮影されたものなのですが、この写真群の評価、写真としての改善点や長所、撮影者だけに見られる個性、特徴、才能などがあれば特に教えてください」

実は、これだけでAIは、その膨大な「データの叡智」から作品を評価し、忖度なくバッサリと与えてくれます。私はこの知識のえかとぉ「能動的」と考えており、「先に与える」という行為のうえで成立させているため、AIの回答は限りなく「自分のための、唯一無二の回答」がもたらされる訳です。

まあ、この質問の根底には「賞を受賞できるほど描画能力の高いAIは、それを構築するための知識にもまた精通しているはずだ」という前提(仮説)を持っているから出来る事なわけですが、AIが「感性で動くものではない」と解っている以上、技術的にはこれを否定する要素は無いことでしょう。

で、あれば我々はその「テクニカルな部分」を大いに盗んで、そこに人間だけが込められる「想い」を作品に収めていく……と言う掛け算(これも大事、言われたことをそのままするのではなく自分なりにミックスアップする)をすることで、結論、その作品群の評価は過去のものと比較して相対的に向上していくことになるのです。

このように、情報の取得には「受動」と「能動」があるのですが、私がなぜ「知識を得るだけのお勉強は実益になりにくい」と散々言っているのかの一端だけでもご理解いただけると嬉しいです。そして、「そうだ。まずは行動して素地を作ってそれを元に考えよう」という基礎思考さえあれば、上達のヒントはその中にあることもまた、ご理解頂ければ幸いです。

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