感情を味わう

27

写真もマーケティングも、本質的には「感情の切り出し」だと思っています。

何を撮るか、何を訴求するか。被写体や商品の選定は技術の問題に見えますが、その実態は「どの感情を選び取るか」という判断です。

ただ、これまで自分が切り出してきた感情には偏りがありました。

美しい風景、輝く魚影、活気のある市場、商品がもたらす顧客の悦び。扱ってきたのは、ほとんどが「快」の側の感情です。これは自然な選択ですし、受け手にも届きやすい。この快適さが、自分の表現の偏りを長く見えなくしていました。

その前提が崩れたのが、グアムでのレックダイビングでした。

戦時下に沈んだ船体に近づいたときに生じたのは、「美しさ」ではなく、明確な「恐怖」と「緊張」でした。出口を確認する手の動きが、普段の倍丁寧になる。それでも、シャッターは切る。

不安の最中で、あえて切り取る。

これまでにない撮影体験でした。そして、そこで得られた写真には、明らかに質の異なる存在感がありました。

その時、ようやく気付きました。表現は、「快」だけでは深くならない。「不快」を扱ったときに、初めて奥行きが生まれる、と。

これはマーケティングでも同じです。

商品を訴求するとき、私たちは「快」に寄せがちです。「これを使うと、こんなに良いことがある」というメッセージは分かりやすい。しかし、実際の意思決定を動かしているのは、しばしば「不安」「恐れ」「失いたくない」という、もう一方の感情です。

優れた表現は、この二面性を避けません。

不安の先にある探究心。恐怖の中で立ち上がる集中。喪失の予感が引き出す行動。こうした「不快から始まる感情の連鎖」を捉えたとき、表現の射程は一段広がります。

レックダイビングという異質な体験が教えてくれたのは、技術ではなく、感情の扱い方そのものでした。

この視点を、写真にもマーケティングにも持ち帰りたいと思います。

関連記事