長い目で見る

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マーケティングに従事している企業や、その支援を行っている代理店などの人が良く陥りがちなことは、「短期的にものを見る目が強い」という事です。ある意味これは仕方がない事でもあるのですが、企業と言うのは四半期、半期、通期(それでも1年)でモノを見ているため、仮に中長期の経営計画などがあっても、結局は「今日、今月、今期」くらいまでの予算でモノを見ますし、そこに従事しているビジネスパーソンであれ、彼らと相対するベンダーであれ、「その粒度でモノを見る」と言うのが定常化している方々にとっては「コスパ」と言えば、「その尺度で投資対効果があっているのか?」で見ることが習慣化されてしまっているからです。

この流れは、この数年で特に、どんどんと「スパンが短く」なっているように感じます。具体的には「今期ではなく、今月、今月ではなく今日明日の結果」を求める。だからこそ、コスパを越えて、タイパなんて言葉まで生まれるのでしょう。とにかく結果を急ぐみなさんは「即効性の高いもの」を重視しがちです。

だからこそ、ECサイトを出店するなら大手のモールに出ていきますし、ブランディングを行うコンテンツマーケティングは、専門事業者のブログのプラットフォームを使う。同様に、投稿の拡散にはアフィリエイターを活用して、どんどん取りあげてもらう。そういう手段も一般化しており、まあ、「選択肢として」は一定理解できます。

しかし、長期にモノを見る視座や、未来を考えると、これらの行動が必ずしも「唯一無二の正解である」か?と言えば、そうではありません。

実際、私のところにもマーケティングコンサルティングの相談で「某ECモールで商売をしてきたが価格競争も厳しく、利幅も出ない。自社のサイトで利益率を上げたい」とか、「コンテンツマーケティングを一生懸命やってきたが、自社のサーバーに情報が蓄積されていないから本当に資産になっているか微妙」とか、「外部集客をアフィリエイターに依存したことで自己集客力が弱くなったし、外的要因にトラフィックも売り上げも振り回されている。どうにかイニシアティブを自社に取り戻したい」のような、切実なものが来ます。

結局、これらは「手軽に初速を付けられること」と「長期的に自社にとって本当に資産になること」と言うのをトレードしているわけですから、長期になってから「どうしたものか」となっても、これまで費やしてきた膨大なリソース(サンクコスト)の兼ね合いもあって「引くに引けない」状況になっていることがほとんどですし、これを本来の流れに取り戻していくというのは実際、相当に難題です。

特にアフィリエイターにSEOで上位を総なめにされているような状況から、「自社でトラフィックを……」と言われても、そもそもSEOと言うのは先行者利益もありますから、まさに「どうしようもない」部分もある訳で、それは初動に考えるべき問題だったはず……と言うことになります。

さて、この話を写真撮影に持っていくと、要するに我々の趣味性の領域でも、こういう話は「実によく考えられる」という事でして「高額なカメラを購入する」時に、「でも、本当に続けられるのだろうか」と考えてしまう自分が居たりすることもあって、足踏みをする……と言うのはよくあることです。しかし、「長く続けたら、買い替えるかも」と思うくらいなら、最初から「長期で投資対効果(コスパ)を見るんだ」と割り切る思想もあってもよく、実際問題「フラグシップ」を最初に買ってしまう方が、いざ「全然ダメだった」となっても一定、相応の値段で売れたりするものです。

私とて、そういう大きな買い物のときには「本当に良いのだろうか」と考えつつも、必ずそういう際の尺度では「10年後、20年後」等を考えたりします。また、これは「コスト」だけのみならず「時間」、「経験」等も同義であり、「一時的に損に見えるかもだけど、体験したことにより、その後の生涯考えなくてよくなる」と言うのは実は結構心理的負担が軽いものです。

豪華な食事をしてみたり、生涯行ってみたかった場所に行ってみるなど、「経験」というのはそれをすることで「こういう感じなのか」という唯一無二の理解を、あなたの中に浸透させます。結局、それなくして「じゃあ、今後どうしていこう」と言うのもリアリティを持って体現することは出来ないのです。

マーケティングコンサルティングをしていても「手っ取り早く、業績を上げてバッと成果を出したい」みたいなことを言いがちな人は多いものですし、お気持ちは理解できますが、そんなものあれば、とっくに皆がやっているはずで、結局我々はどんなものにせよ「コツコツ」と着実に歩むことが王道な訳です。弊社のブランドにしてもそうやって培ってきたものですし、結局それが「遠回りに見えて一番近道」だったりするものです。

パフォーマンスについて考察するときは、それを適用する期間を考慮しつつ、最適な「長さ」を持って、その評価が出来るようにしていきたいものです。

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