感情を想起させる

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マーケティングと言うのは基本的には「感情を想起させること」が非常に重要です。私が、マーケティングコンサルティングの中で、いつもお伝えしていることは、マーケティングとは「情報」だけで「価値」を感じてもらう活動、つまり「価値創造」を行うために行われると言う事です。

食べてもいない食品でも「青森産で、コンクール金賞受賞したリンゴ」とか、「テレビの情報番組で紹介されたスイーツ」と言われれば、我々は「美味しいに違いない」と思い込むわけですし、メディアで取り上げられた人だと言われれば「きっとすごい人なんだ」と勝手に思い込みます。

こういった活動は、実際にそのスイーツが美味しいとか、その人物が優れているのか?という事実は、さておき、その商材の経済活動を競合に対して優位なポジションに押し上げ「差別化」を成立させます。

やりすぎるといわゆる「盛りすぎ」というか「誇張」となってしまう訳で、この、その情報を得た人に対する「期待値のコントロール」こそが重要であり、マーケティングの腕の見せ所なのですが、これは写真を題材に考えてみると、もっとフェアに、もっと本質的に行う事が出来そうです。

百聞は一見に如かず

マーケティング活動では「メディアに出ました!」という情報などは主に「文字情報」で伝えられ、補足として写真、映像などの「視覚情報」が付随するわけですが、写真はその「視覚情報のみ」で相手に感情を想起させるという意味で、芸術性が高いと感じます。まさに「百聞は一見に如かず」ということで、写真の持つ題材、構図、撮影の技法などを上手に使えれば、きっとそれら商材を際立たせることが出来るでしょう。腕の良いカメラマンとは、この辺りの「写真そのもののうえに表現される、言語化しにくい情報」の取り扱いに非常にたけている人種なのであろうと思います。

翻って考えれば、ただシンプルに写真を連射して撮っていくのではなく、このように「主題の中にどのような感情を組み込んでいくのか」と言うのは、写真をただの画像情報にしないためには重要な要素と言えそうです、いわゆる「しずる感」というような「美味しそうだ」とか「楽しそうだ」とか、何かを予感させる(想像を掻き立てる)写真や絵画を前にすると、我々は得も言われぬドキドキを感じる訳ですが、そういうのもプロのプロたる所以なのでしょう。

こちらの写真は、日比谷公園で月曜日の午後、木陰の光が移すベンチを見て「ああ、何か座ってサボりたくなるような景色だな」とフッと思い、撮影した1枚です。ベンチに刺す光が、「座りたいな」と思うような差し方に見えたため、手前のベンチにピントを合わせ、奥行きの緑との対比を意識しながら撮ってみました。

むろん、私程度の腕では、いかんせん、まだまだこの辺りの表現力が弱いため、努力が求められる部分ではありますが、それにしても、そのように考えながら写真を撮ることは、日常の「一見して何でもない風景」に息吹を与えることが出来る可能性があると感じます。

重要なのは、こういった「なんでもない景色を見たときに、心をよぎった感情」を言語化し、それを意識する練習を日々の中から行う事です。一眼レフのなお良いところは、それを「写真」という瞬間に捉え具現化できる事であり、最近の私は、それもあってかスマホもあまり触らなくなりましたし、イヤホンをして移動をすることも随分と少なくなった気がします。

おそらく、視覚からの情報を敏感にするために、自然とそういう行動にでたのかもしれません。

この辺りの「目標意識を適切に持ち、純粋に鍛錬と反省を重ねる」といったコツコツとした取り組みが、長い時間をかけたとき、きっと何か結実するものが得られるのではないだろうか。そんな期待を抱きながら、今日も楽しみつつ、鍛錬を続けています。

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